鰐とリボン

「肩肘はらずいつのまにやらいかず後家な40代」が本を紹介するブログです

なりたい顔ってどんな顔?

携帯やスマホの普及で写真の撮影は日常的になり、自分の顔や身体を加工することも身近になった。そして自分の顔を自在に素材として扱う先駆者は南伸坊氏だと思う。

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「顔」南 伸坊(著), ちくま書房

南伸坊氏は言わずと知れたイラストレーター、エッセイスト、ガロ編集長、その他諸々、マルチな多才っぷりで知られる方である。年齢的にもう少し下の世代であればテレビで引っ張りだこだったはず…いや、もしかしたらご本人の意志で出演されないのかもしれない。数々の名著があるが、やはり顔面を科学的見地からみたこの本は外せない。

南伸坊氏の顔に関する知見は人工知能の顔認識のとらえ方に通じる部分があるように思う。南伸坊氏は個人的フィルターを一切排除し、顔そのものをごくごく自然に研究している。そしてこの後の一連の「顔」シリーズでは自らが実験素材となり、どのようにすれば違う素材に加工できるかを日々、研究し続けておられる。

古来より顔について言及するのは不遜なことといわれてきた。もちろん「キミみにくいね!」といわれて喜ぶ人などまずいないだろうし、少しでもよく見せたいのが人情だ。しかし顔には本来、人が惑わされやすい色気以外にもさまざまな情報が隠されている。伸坊氏は人はそもそもなぜ顔に興味があるのか?というところまで掘り下げ、考え抜いている。根底を貫くのはいい意味で大人気ない純粋な興味だ。ゆえに年月を経てもその面白さは色あせない。

残念ながらサンプルの多くが出版当時(1995年)の旬な方々のため、今読むと伝わりにくい部分もあるだろうが、それをもってしても一読の価値あり。そして巻末のナンシー関氏の解説に倣って盛大なる敬愛の念を込め『尊敬しよっかなー!』とつぶやきたくなる良書である。