鰐とリボン

「肩肘はらずいつのまにやらいかず後家な40代」が本を紹介するブログです

ハンドメイドの限界

現代日本デフレスパイラルだし、新型コロナも落ち着いていないし、先の希望も見えないが、もし19世紀初頭のイギリスで石炭を掘らなきゃ暮らしていけない人生と交換しろといわれたら私は断る。

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「ゼロからトースターを作ってみた結果」 トーマス・トウェイツ(著), 村井理子(翻訳), 新潮文庫

この本の作者は、学校の卒業研究でいまや4ポンド(日本円にして500円程度)で買えるピカピカのトースターをゼロから作ってみようと思い立つ。ゼロとはどこから?原材料の鉱石を掘るところから!マイカ(電気絶縁体)もニッケルも世界各地から探しださなくちゃならない!プラスチックでできた外側のケースもジャガイモ(!)から作るのだ。

第一章から、本文の始まる前のページには目標とするトースターの解体前の美しい部品の写真、章の最後のページにはトーマスがそれらをめざして手作りした不格好な部品の写真が載っていて、そのあまりの違いに胸が詰まる。

手順からなにからなにまでがユーモアを交えつつも実録的で、決して器用ではないトーマスだからこそ読み手も一緒に作ったような擬似体験ができる。というか失敗が山積みで、読み手が技術者や器用な人だったりするとイライラしちゃうだろう。だけどトーマスはその身をもってして、現代大量消費されている物の多くは、歴代の人々の知恵や努力の賜物で安価に手に入れられることは本来奇跡なのだ、という真実を思い出させてくれる。

巻末、22ポンド(日本円にして約2800円)の工業製品のトースターたちと並ぶトーマスの作ったボロボロのトースターの写真。値段は1187.54ポンド(日本円にして約15万円)!。そのフォルムはヨレヨレでも、なんだか誇らしげにみえる…気がする。

そして今、私たちは便利さの代償を支払う時代に突入してしまった。物事にはかならず負の側面があるものだ。 ピカピカのトースターをどうすれば安くたくさんつくれるか、ではなくどうすれば捨てないですむのか、を考えなくてはならない時代。 もはやそうしないと地球は本当にやばいのである。