〜日本昔ばなし 天狗のなやみごと (第四話) 文・絵 ムトゥチズコ〜
天狗の兄貴分タカオに諭されるコテンだったが…
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天狗のなやみごと 其の一
「だからいつもいってるだろう。人間なんかと仲良くしてもいいことなんかなにもないって」
村の子供たちと相撲をとった話をすると、タカオはそれみたことか、と息巻いた。
タカオはとなり山に住む兄貴分の天狗だ。こうしてたまにコテンを訪ねてやってくる。
なににつけても先輩風を吹かすので、コテンはタカオがすこし苦手だった。
「でも、おれの鼻がみえるまではみんな優しかったんだ」
コテンの反論に、タカオは薄目でコテンを見やると、おまえはなんもわかっちゃいないな、といったふうにゆっくりと左右に首を振った。
「このあいだなんかもな。おれの山近くの村を久しぶりにのぞいてみたら、ちょうどアジが大漁でな」
「そりゃよかった。今年は獲れないかもっていってたのにな」
「ああ。ぴちぴち跳ねたたっくさんのアジにみんなニコニコしててよ。それで思わずおれも村の人間たちに「すごいじゃないか」と声をかけてしまったのよ。それが運のつき」
そこでタカオは、ハーっとため息をついた。
「『おまえさんの羽団扇は立派じゃのう、ちょっこし、アジの干物をあおいでみてくれんかの』と村長にいわれて、よっしゃとあおいだら四半時(しはんとき)(約30分)ほどですぐに乾いたのよ。そしたら村人が我も我もと押しかけてきて、結局村中の干物を乾かす羽目になっちまった。全部終わったら、すっかり夜中だったぞ」
コテンは村中の干物を一生懸命あおいでまわるタカオを想像して、おかしくなった。やはりタカオには憎めないところがある。
「しまいには妖怪は疲れないから便利じゃのう、だとよ! そんなわけなかろうが。妖怪使いが荒いにも、程があらあ」
タカオはぶつぶつ一人ごちていたが、コテンはそれより人間と話せているタカオがうらやましかった。
「やっぱりタカオだって人間と仲良くしたいんじゃないか」
「うっ」
タカオは目を白黒させた。
「まぁ、あいつらは、その、うん。かわいいところもあるからな」
「タカオはなぜ普通に村人とはなせるのに、おれはだめなんだろう」
しょげるコテンに、タカオはうーん、と首をかしげた。
「下手に天狗であることを隠さない方がいいかもな。腹黒妖怪は姿を隠して近づいてくると聞くぞ」
「なぁんだ、そんなことか」
コテンの顔が明るくなった。
「今度はおれもタカオ兄貴を見習って、このままでいくことにしよう」
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河童のちえくらべ 其の五