〜日本昔ばなし 天狗のなやみごと (第八話) 文・絵 ムトゥチズコ〜
昨日の子どもがコテンの山にやってきた!
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天狗のなやみごと 其の一
すみかに戻ったコテンは山のてっぺんにある草むらに寝っ転がった。
空いちめんに星が瞬いているのがみえる。それを見ていたら、胸がじんと痛んだ。そしてその痛みはどんどん大きく広がった。
タカオの言うとおりだ。人間に近づいてもろくなことが起きない。
見返りを期待するような、さもしい気持ちで助けたわけではなかったけれど、あの母親のような態度に出会うのはつらかった。
しばらく村に近づくのはやめよう。そう決心すると、へとへとに疲れたコテンは目を閉じて眠りに落ちた。
あくる日のこと。
コテンが羽団扇で山のまわりを飛んでいると、昨日助けた親子の子どものほうが山を登ってくるのが見えた。
人との付き合いにさすがに懲りたコテンが気付かぬふりでそのまま飛んでいると、子どものほうが気づいたようで、こちらへ大きく手を振った。
一瞬コテンは迷った。が、次の瞬間、シュッと羽団扇を振って子どもの近くへ降りたった。
「どうした。なにかあったか」
子どもは昨日とは打ってかわって、穏やかな目をしていた。そして、手にしていた包みをコテンに差し出した。
「これ。父ちゃんがお礼にって」
コテンが包みを開けると、中には干し芋がはいっていた。次の瞬間、コテンの胸のあたりにつかえていたものが少しづつ溶けていった。
「そうか。父ちゃんの怪我の具合はどうだ?」
「今朝方、お医者さまに診てもらったんだ。ひどい打ち身だって。お灸がきいたみたいで、よく寝てる。七日ほどでまた歩けるようになるって」
「そりゃあよかった」
子どもはそこでコテンの目をじっと見ると、ぺこりと頭を下げた。
「おれの名は長助だ。昨日は助けてくれたのに疑ったり、追い返すようなことをしてすまない。あ、相撲の時も」
コテンは頷いた。いつのまにか、ちっとも胸は痛くなくなっていた。
「もうなんとも思っちゃいないよ」
長助はにこっとすると話を続けた。
「じつは母ちゃんやおれが怒ったり怖がったりするのにも、わけがあるんだ」
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天狗のなやみごと 其の九