〜日本昔ばなし 妖怪皮算用(ようかいかわざんよう)(第十四話) 文・絵 ムトゥチズコ〜
命の恩人の正体はいったい何者…⁉︎





まだあちこち痛かったが、そんなことを言っている場合ではない。二人は布団を抜け出し、娘が消えた方へ忍び足で向かった。
ここはどうやら洞窟の中らしかった。壁のところどころに灯りが焚かれている。
すぐに道は二手に分かれ、片方の道の先に灯りが見えたので、二人は迷わずそちらへ進んだ。
奥から笑い声が聞こえてくる。手前にせり出している岩の陰から見つからないように奥をのぞいてみて、二人は青くなった。
身の丈7尺(2m以上)はあろうという青鬼と赤鬼があぐらをかいて酒を飲んでいるではないか。
鬼たちは酔っているようで、大声で話しており、二人にもその内容がよく聞こえてきた。
「いやあしかし、女に化けるというのは本当に窮屈なものだよ、兄貴」
どうやら先ほどの娘はこの青鬼が化けていたようだ。
「そりゃそうよ兄弟。だが、人間が一番油断するのは若くてたおやかな女だからな。しょうがない」
「それにしても、山の中で飯のタネに出会えるとはな」
「だが年をとっているから肉はかたいだろう。傷の手当てといって肉を柔らかくする薬草をたっぷり塗っておいたぞ。まさか自分たちが食われるための下ごしらえとは思うまい」
そういうと赤鬼がククク、とさもおかしそうに笑った。
「兄貴、どれくらいで肉が柔らかくなるんだい、待ちきれないよ」
「明日の夜まで染み込ませれば十分だろう。それまでは少しでも肥えさせて食べでがあるようになってもらわんとな」
そういって鬼たちはドッと笑った。
男と妻は恐ろしさのあまりすっかり腰が抜け、先ほどの寝床まで這うようにして戻ってきた。
この薄暗がりの中で方向もわからず逃げ出せば、すぐ捕まるのは目に見えている。
「すまない。私のせいだ。勘弁してくれ」
一筋の涙が流れ、男の手にぽとり、と落ちた。妻は黙って男の手をそっと握った。
しばらく二人は手を取り合って震えていたが、やがて妻が重い口を開いた。
「最後の悪あがきかもしれませんが、私に考えがあります。もしかしたらうまくいくかもしれません。明日、やってみましょう」
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妖怪皮算用(ようかいかわざんよう) 其の十五