〜日本昔ばなし 妖怪皮算用(ようかいかわざんよう)(第十九話) 文・絵 ムトゥチズコ〜
そこには思わぬ懐かしい出会いがあったのだ…!!
そこには朝顔の変化咲きの花がポッと一輪咲いていた。
鬼がどこかから盗んで来たのだろう。持ってきたはいいが、どうしてよいかわからず放っておいたのにちがいない。
それを見ていて、ふと、男ははるかかなた昔のことを思い出した。
「おまえさま、どうなさったのですか」
「いやなに。昔を思い出してな。そういえば自分は子供の頃、庄屋ではなく植木屋になりたいといって、親を困らせたことがあったのだ」
「まぁ。初めて知りました」
「自分でも忘れていたよ。自分だけの珍しい朝顔をつくりたくてな。しかしその後すぐ父が病に倒れ、家を継がねばならなくなり、そんなことをいっていられなくなった」
「そうだったのですね。だから今でも朝顔が好きなのですね」
妻は合点が言ったように頷いた。
「おや、知っていたのか」
「皆、知っていますとも。だから、このあいだ元気のないおまえさまを励まそうと朝顔をもってきてくれたじゃありませんか」
そうだった。しかし、あの時は心を動かされなかった。死なない方法を探るので精一杯だったのだ。
「どうでしょう。今からその朝顔作りをはじめるってのは」
男は妻らしいな、と思った。
「そう簡単にいうが、根気も時間もいる、大変に骨の折れる作業なのだ。それに私ももうこの年だ。そんなことを始めたら世間ではもの笑いの種だろう」
妻はうーん、と首を傾げた。
「そうでしょうか。意外と誰も気にしないのではないでしょうか。池でたくさん泳いでいるメダカの年をいったい誰が気にするでしょう」
「ははは、なるほど。メダカか」
すっかりいつもどおりの妻の返しに思わず男は笑ってしまった。
「そうだな。今からやってみるのもおもしろいかもしれんな」
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妖怪皮算用(ようかいかわざんよう) 其の二十