〜日本昔ばなし 妖怪皮算用(ようかいかわざんよう)(第二十話) 文・絵 ムトゥチズコ〜
気持ちもさだまり、家路を急ぐ二人だったが…⁉︎
そうと決まったら、男ははやく家に帰って、いろいろ準備をしたくなってきた。
今どこまで変化咲きの技術は進んでいるのか、最近、巷(ちまた)で人気の朝顔はなにか。それよりなにより、まずは植木屋へ行かなくてはならない。
それにせっかくなら花合わせの会(花の品評会)に出せるものをつくりたい。やらなくてはならないことが山ほどある。
「よし、閻魔大王さまのところに行くのはまたにしよう」
男の急な方向転換に妻はびっくりした。
「えっ、ようやくここまで辿り着いたのに、よろしいのですか」
「うむ。やるとなったら、いろいろ調べ始めなくてはならん。時間がないぞ」
「でも、もし閻魔大王さまに妖怪にしてもらえるなら死ななくなるのですから、急ぐ必要がないのではありませんか」
そうだ。妻の言うことももっともではある。しかし男はもう決めていた。
「山姥(やまんば)どのは今の自分のままでは妖怪になれないといっていた。であれば、朝顔の変化咲きの研究もしたくなくなってしまうかもしれない。それは困る」
それを聞いて妻はふふふ、と笑った。
「久しぶりにそのような元気な言葉を聞きました。えぇ、えぇ、早く家に帰りましょう」
変化咲きの朝顔を風呂敷で包み、洞窟の外に出ると山の天気は晴れ渡り、ふもとの村までの細い道筋を見つけることができた。
鬼たちの住処は山のてっぺんにあったようで、帰りはほとんど下り坂であった。足取りも軽いうえに、気もはやる男と妻はどんどん歩いた。
しかし、いかんせん勢いにのりすぎ、男はいつのまにか前のめりになり
「アッ!」
というまもなく、山の坂道を転げ落ちてしまった。
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妖怪皮算用(ようかいかわざんよう) 其の二十一