〜日本昔ばなし 妖怪皮算用(ようかいかわざんよう)(第二十二話) 文・絵 ムトゥチズコ〜
男はいったい、どちらの道をえらぶのか…⁉︎





「どう選べるのでしょうか」
「道はふたつだ。ひとつは普通に人として生を終え、閻魔大王の裁きを受ける。そこから先は今までのおまえの生き方如何(いかん)だ。徳を積んでいるならば極楽浄土へいけるだろうし、またこの世に生まれ変わることもあるかもしれない。もし、なにか罪を犯していたなら地獄へ落ちるやもしれぬ」
「なるほど。幾度もそのように聞いたことがあります」
山姥(やまんば)は頷いた。
「そしてもうひとつは、いままでの自分を全て捨て、妖怪となる道だ。閻魔大王の裁きを受けるとき、妖怪として生まれ変わりたいと切に訴えるのだ」
いよいよか。男の胸の鼓動はますますはやくなった。
「いったい私はどのような妖怪になるのでしょうか」
山姥の目はけわしくなった。
「それはわしにもわからない。ただ、人が妖怪になるとき、自らもあずかりしらぬ心の奥底の欲望が形となって現れるようだ」
男はゾッとした。自分も知らぬ己の欲望。いったい、どうなってしまうのだろう。
「山姥どの。ひとつきいてよいですか」
「なんだ」
「山姥どのはどのような道をへて妖怪になったのですか」
山姥は昔をなつかしむような遠い目つきになった。
「自身の記憶はないが、昔のわしを知るものにあったことがある。どうやら人間であったらしい。このような姿になったということは、若い娘の時分に年をとりたくないと切に願ったからなのかもしれん。まぁこれ以上、確かに年をとることはないだろうから望みはかなっているのだろうな」
そういうと、山姥はいつものようにカラカラと笑った。
やがて霧が晴れ始めた。あたりには良い香りが満ち、男はなぜだかあたたかく大きななにかに包まれているような安らぎをおぼえた。
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妖怪皮算用(ようかいかわざんよう) 其の二十三