〜日本昔ばなし 妖怪皮算用(ようかいかわざんよう)(第二十四話) 文・絵 ムトゥチズコ〜
妖怪にならずとも死なない道があるかもしれぬ…⁉︎





「おまえさま!気づかれましたか!よかった!」
気づくと、男は先ほど雲の上から見ていた自分に戻っていた。傍(かたわら)では妻が泣いている。
「もう大丈夫だ。心配をかけたな。私が転がってからどれくらいの時がたったのだ」
涙をぬぐいながら、妻は首を傾げた。
「転がりましたおまえさまに追いつきましたのはたった今ですから、ほんの少し前でございます」
「おかしいな。じつは今さっき、この世とあの世の端境(はざかい)で山姥どのに会っていたのだ」
「まぁ! なんとおっしゃっていましたか」
そう言われて、そこで話したことの記憶がほとんどないことに男は気づいた。かぐわしく美しい場所であったことしか覚えていない。
ただ、手の中にある山姥(やまんば)の新しい髪は村への帰り道を指しており、あれは夢ではなかったことを告げていた。
「どうやら私は死ぬまでしばし、猶予があるらしいぞ」
その言葉を、妻は我がことのように喜んだ。
「よかったこと! ではそれまで思う存分、朝顔を作りましょう」
歩き出すとあちこち痛かったが、それも生きている証(あかし)なのだと思うと、男はしみじみと嬉しかった。
村へ帰ると、さっそく男は妻とともにあたらしい朝顔の咲かせ方に没頭した。
その甲斐あってか、翌年の花合わせ(花の品評会)ではいくつものおもしろい朝顔を皆に楽しんでもらうことができた。
男はいったい妖怪になれたのか。
それは誰にもわからない。(なにせ本人ですら忘れてしまうのだ)が、のちに男の作った朝顔が大変有名になった、ということだけは確かである。
(了)