〜日本昔ばなし ぶつくさ太郎と一つ目小僧(第十話) 文・絵 ムトゥチズコ〜
姉が借りた傘を返しにいく重吉だったが…⁈
あくる日のこと。出かけようとしている重吉の後ろ姿に、奥の部屋から姉のお美代が声をかけてきた。
「重吉、寺子屋へは越後屋のまえをとおるだろ。借りた傘を返してきておくれ」
みると入り口に大きな番傘がたてかけてある。重吉は一瞬、面倒くさそうな顔をしたが、すぐに
「はい、姉上」
と素直に傘を手にとり家を出た。歩きながら重吉は
(たしか姉上はこれから歌舞伎を観にいくはずだ。この使いの駄賃になにか買ってきてくれるかもしれないぞ)
そんなことをちゃっかり考え、にやりとした。
やがて雨が降ってきた。
こりゃちょうどいい、と傘をひらくと、真ん中のあたりが大きく破れている。
「なんだ、役に立たないじゃないか」
重吉ががっかりしていると、
「ちょうどよかった。いれてくれ」
と八郎が傘に入ってきた。
「おや。こんなに破れているじゃないか、まだ新しいのに」
「そうなんだ。姉上が越後屋で借りた傘なんだが、これも伝右衛門たちが貼ったものかもしれないな」
そのとたん、さしていた傘がバチン!と閉じ、二人の頭は傘の中に閉じ込められた。
「な、なんだ?」
もがいていると、上のほうから大きな声が響いた。
「なんだかんだといいかげんなことをいいおって!こうしてくれる」
しだいに傘の閉じる力が強まっていく。
「いでででで!」
「前が見えない!」
しかも傘はひとりでに動きだしたので、ふたりはつられてよろよろと歩きだすしかなかった。
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ぶつくさ太郎と一つ目小僧 其の十四