〜日本昔ばなし 天狗のなやみごと (第九話) 文・絵 ムトゥチズコ〜
そりゃあ、長助にだって事情があったのだ…
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天狗のなやみごと 其の一
「少し前のことだ。とうちゃんのかあちゃん、つまりおれのばあちゃんの話なんだが」
長助は話し続けた。
「ばあちゃんが畑のひまな時期に染め物をはじめたんだ」
コテンはほっとしてお腹が空いたので干し芋を食べたくてたまらなかったが、黙ってうなずいた。
「最初はおれらの着物用の布を染めてたんだけど、だんだん染め物のもとになる藍を畑で育てたい、と言い出したんだ。そうすれば、もっときれいな色が出せるってね」
そういえば、羽団扇で飛んでいる時に、村できれいな藍色の布が干してある家を見たのをコテンは思い出した。あれは長助の家だったか。
「かあちゃんは、今の畑だけでも食べるのに精一杯なのに、って反対して、いったんはばあちゃんもあきらめた。でもある日、天狗がやってきて、ばあちゃんの布を見て、これはすごい。お金にもなるぞ、ってばあちゃんを連れ出したんだ。そしてそれっきりかえってこない」
長助の目はさっと暗い色になり、キラッと何かが光ったかと思ったら、ボタボタっと大粒の涙があふれた。
それを見てコテンも悲しくなった。天狗にもいろいろいる。子供をさらって売り飛ばす天狗だっていると噂で聞いたことがある。長助のばあちゃんも子どもではないが、なにかひどいめにあっていないとも限らない。
「そうか。そんな天狗仲間がいるのか。すまなかった。人間にも悪い奴がいるように天狗だっていろいろだ」
長助は肘で涙を拭うと、うなずいてまた続けた。
「父ちゃんが、コテンはいい天狗だって。朝、おれと母ちゃんに説明してくれた」
コテンはふわっとうれしくなった。
「そうか。それで、どんな天狗だったんだ、そいつは」
「うーんと、おかっぱみたいな髪。コテンより、もっと毛がふわふわしていて」
長助は木の枝を持ってくると地面にサラサラっと似顔絵を描き始めた。
「こんな感じだった。となり山に住んでるっていってたとおもう」
(あれっ?)
コテンはぎょっとした。これは兄貴分のタカオじゃないか。
「こいつはそんな悪い天狗じゃないぞ、長助。今からいっしょに確かめに行こう」
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天狗のなやみごと 其の十