またまた転がった男が目を開けるとそこは…⁉︎





「イデデデデ」
転がり終わった男が目を開けると、あたりは濃い霧に覆われていた。
どこか骨を折ったのでは? とあちこちをさわり確かめたが、よくよく頑丈にできているらしい。今回も無事なようであった。
ほっと一息ついていると、聞きおぼえのある声がした。
「おや、また会ったな」
山姥(やまんば)であった。山姥は霧中をふわふわと浮いていた。気づけば自分も地面に立っている気がしない。上下左右の感覚がなく、ただ浮いているようだ。
「山姥どの。わたしは死んでしまったのでしょうか」
「そうともいえるし、そうでないともいえる。いまちょうど、端境(はざかい)のところにいる」
「なんと!」
「ここはもともと人でないものや人でなくなったもの、人でなくなろうとしているものたちのとおり道だ。つまりはそういうことだ」
このような時がきたらもっと恐ろしさに震えるかと思っていたが、案外冷静に受け止めている自分に男は驚いていた。
山姥(やまんば)はツッとこちらに寄ってきた。
「おまえは死にたくないと言っていたな。いまがちょうど選べるときだぞ」
男の心臓は早鐘を打ったようになった。
「いま選べるのですか」
山姥(やまんば)は頷いた。
「閻魔をたずねて教えを乞うがよい、とそなたに教えたが、もはや時がきた。いままさに、おまえの人としての寿命が尽きようとしている。どちらにしろ、一旦死なないと妖怪にはなれないのだからな」
男はハッとした。なぜ今まで気づかなかったのか。もし妖怪になれる機会があるのだとしたら、自らが人間でなくなるときこそが、その時であるに決まっている。
山姥(やまんば)は男の気持ちを見透かしたようにこう続けた。
「そしておまえはまだ死んではいない。選べるのだ」
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妖怪皮算用(ようかいかわざんよう) 其の二十二