〜日本昔ばなし 妖怪皮算用(ようかいかわざんよう)(第二十三話) 文・絵 ムトゥチズコ〜
男の命、まだしばしの猶予あり!
その時だった。途切れ途切れのかすかな声がどこからか聞こえてきのだ。
「さまー…おまえ、さまー! お、ま、え、さ、まー!!」
その声はだんだんとわずらわしさを感じるほどまでに大きくなり、あたりの心地よい安らかさはすっかりかき消された。
とたん、ふっと山姥と男を包んでいるあたたかいなにかが動いて、足元に立ち込める雲の切れ目へといざなった。
声はその切れ間から聞こえてくる。男と山姥が覗き込むと、そこには倒れている男と必死で揺り起こそうとする妻がみえた。
「わ、わたしがあそこに…!」
おどろいている男に山姥はにやり、とした。
「この世の声が聞こえる、ということは、おぬしは寿命が尽きるまで、まだ時間があるようだな」
男はハーッと安堵のため息をついた。まだ時間があることが素直に嬉しかった。
「実はここに来る前、今の考えのままで生きていたいと思っていたところだったのです」
山姥はそうか、と頷いた。そして、髪を一本引き抜き男に手渡した。
「おまえたちの村を指すようにしたぞ。はやく家へ帰るが良い」
男は受け取りながら、深々と頭を下げた。
「山姥どの。ほんとうに何度も世話になって…なんとお礼を言ってよいか」
山姥はヒラヒラと手を振ると
「では今度会ったら将棋にでもつきあってくれ。妖怪になってからでもかまわんぞ。達者でな」
と、またカラカラと笑った。
その言葉をはっきりと最後まで聞き終わらないうちに、バン!という衝撃が男を襲った。
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妖怪皮算用(ようかいかわざんよう) 其の二十四